民事信託~信託管理人とは~
民事信託では、委託者、受託者、受益者などの信託関係人のほかに、信託管理人、信託監督人、受益者代理人などの受益者保護関係人の制度を設けています。これらの者は、受益者の権利や利益を保護し、又は信託の目的が適切に達成されるようにする役割を担います。
本コラムでは、受益者保護関係人のうち、信託管理人について解説いたします。
信託管理人とは
信託管理人とは、受益者が現に存しない場合に、原則として、受益者のために自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する者です。
受益者とは、信託に基づいて利益を受ける権利(受益権)を有する者をいいますが、信託を設定する時点で、必ずしも受益者が現に存在している必要はありません。
受益者が現に存しない場合の例としては、以下の場合が挙げられます。
- まだ生まれていない子を受益者として指定する場合
- 一定の条件を満たした者を受益者とする旨が定められているが、条件を満たす者がまだ現れていない場合
- 信託行為の定めにより受益者を指定する権利を有する者がまだこの指定権を行使していない場合(信託法89条)
- 受益者の定めのない信託の場合(信託法258条以下)
このように受益者が現に存在しない場合には、将来の受益者の利益を保護するため、信託管理人を置くことができます。信託管理人は、自己の名をもって、受益者の権利に関する裁判上又は裁判外の行為を行います。
なお、受益者の定めのない信託では、信託管理人は、受益者のためではなく、信託の目的を達成するために権限を行使します。また、遺言によって受益者の定めのない信託を設定する場合には、原則として、信託管理人となるべき者を指定する定めを設ける必要があります(信託法258条4項から6項まで、261条1項)。
信託管理人の資格
以下の者は、信託管理人となることができません(信託法124条)。
- 未成年者
- 当該信託の受託者
法律上、これら以外の特別な資格要件はありません。もっとも、信託管理人は広範な権限を有するため、実際の選任に当たっては、信託事務を理解し、受託者を適切に監督できる者を選ぶことが重要です。利害関係にも配慮したうえで、信頼できる親族や、弁護士などの専門家を信託管理人として定めておくと良いでしょう。
信託管理人の選任
信託管理人を置く方法には、信託行為において信託管理人となるべき者を指定する方法と、裁判所が利害関係人の申立てにより選任する方法があります。
信託行為において信託管理人となるべき者が指定されている場合には、利害関係人は、その指定された者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができます。その期間内に委託者(委託者が現に存しない場合にあっては、受託者)に対し確答をしないときは、就任の承諾をしなかったものとみなされます(信託法123条2項・3項)。
信託行為に信託管理人に関する定めがないとき、または信託行為の定めにより信託管理人となるべき者として指定された者が就任の承諾をせず、若しくはこれをすることができないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、信託管理人を選任することができます(信託法123条4項)。
信託管理人の権限
信託管理人は、受益者のために自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによります。(信託法125条1項)。
複数の信託管理人がいる場合には、原則として、共同して権限を行使しなければなりません。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めに従います(信託法125条2項)。
信託管理人は、善良な管理者の注意をもって、受益者のために、誠実かつ公平に権限を行使しなければなりません(信託法126条1項・2項)。
信託管理人の任務の終了
信託管理人の任務の終了、辞任、解任は信託の清算が結了した場合のほか、受託者の規定(信託法56条1項1号~7号、57条、58条)が準用されます(信託法128条1項・2項)。
1.信託管理人である個人の死亡
2.信託管理人である個人が後見開始または保佐開始の審判を受けたこと。
3.信託管理人(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が
破産手続開始の決定を受けたこと。
4.信託管理人である法人が合併以外の理由により解散したこと。
5.信託管理人の辞任(信託法128条2項、57条)
6.信託管理人の解任(信託法128条2項、58条)
7.信託行為において定めた事由
※なお、後見開始若しくは保佐開始の審判又は破産手続開始の決定については、信託行為に別段の定めを設けることができます。
これらの事由により信託管理人の任務が終了した場合には、信託法129条1項により準用される同法62条の規定に従って、新たな信託管理人を選任することができます。
信託管理人による事務の処理の終了等
信託管理人本人の死亡や辞任などによる「任務の終了」とは別に、受益者が現実に存在するようになった場合などには、信託管理人を置く必要がなくなるため、その事務の処理が終了します。信託管理人による事務の処理は、以下の事由によって終了します(信託法130条)。
1.受益者が存するに至ったこと
2.委託者が信託管理人に対し事務の処理を終了する旨の意思表示をしたこと
(ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。)
3.信託行為において定めた事由
信託管理人による事務の処理が終了した場合、信託管理人であった者は、受益者が存するに至り、その受益者を知ったときは、遅滞なく、受益者に対して事務の経過及び結果を報告しなければなりません(信託法130条2項)。
※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
弁護士
小西 憲太郎
- 所属
-
大阪弁護士会所属
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事