民事信託 ~信託の計算、会計、信託帳簿について~
信託の目的を達成するためには、信託財産が適切に処理される必要があり、そのためには適切な計算、会計が必要となります。
本コラムでは、信託の計算、会計、信託帳簿について解説いたします。
信託の計算と会計について
信託法では13条で会計の原則を以下のように定めています。
信託の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする。
信託においては、信託事務が信託の目的に沿って適切に処理されるとともに、その計算や会計が明らかにされねばなりません。そのため、信託計算規則によって、信託帳簿及び財産状況開示資料の作成が規定されています。
信託帳簿等の作成について
一般的な民事信託において留意しなければならないのは、信託帳簿等の作成、報告及び保存の義務についてです。信託法上、受託者が作成・保存等を行うべき主な資料として、①信託帳簿、②財産状況開示資料、③信託事務の処理に伴い作成又は取得した書類があります(信託法37条1項、同条2項、同条5項)。
信託帳簿
信託帳簿とは、信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにするための書類です。
なお、信託においては、会計実務上の仕訳帳や総勘定元帳などの厳格な会計帳簿類の作成までは求められていません。信託財産の種類や取引の内容が単純である場合には、現金出納帳などの比較的簡易な形式でも、信託財産及び債務の状況が明確に把握できる限り、信託帳簿として利用できる場合があります。
- 保存期間(信託法37条4項)
受託者は、信託帳簿を作成から10年間保存しなければなりません。なお、10年以内に信託の清算結了があればその日までとなります。
ただし、受託者が受益者に対して信託帳簿又はその写し等を交付した後は信託帳簿の保存義務が免除されます。 - 報告義務
受託者には、信託帳簿そのものを定期的に受益者へ交付又は報告する義務はありません。ただし、委託者又は受益者から信託事務や信託財産の状況について報告を求められた場合には、これに対応する必要があります。また、受益者は、理由を明らかにした上で、信託帳簿の閲覧又は謄写を請求することができます(信託法38条1項)。
財産状況開示資料
受託者は、毎年1回、一定の時期に、信託財産及び信託財産責任負担債務の概況を明らかにする資料(財産状況開示資料)を作成しなければなりません。
一般的な民事信託では、必ずしも企業会計上の貸借対照表や損益計算書と同一の形式で作成する必要はありませんが、信託帳簿に基づき、信託財産及び債務の概況が分かる内容とする必要があります。
賃料収入等があり確定申告が必要となる場合には、確定申告のために作成した収支内訳書等を、財産状況開示資料の作成に利用できる場合があります。ただし、確定申告書類だけでは信託財産や債務の状況が十分に明らかにならない場合には、別途資料を作成する必要があります。
- 保存期間(信託法37条6項)
信託財産の状況に関する書類を作成した場合は、信託の清算結了の日まで保存しなければなりません。ただし、作成から10年を経過した後に、受益者に対し、当該書類若しくはその写しを交付し、又は当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供したときは、保存義務が免除されます。 - 報告義務(信託法37条3項)
受託者は、毎年1回、一定の時期に財産状況開示資料を作成し、その内容を受益者に報告しなければなりません。ただし、信託行為に別段の定めがある場合には、その定めに従います。
信託事務の処理に関する書類
信託事務の処理に関する書類とは、信託財産に属する財産の処分に係る契約書その他の信託事務の処理に関する書類をいいます。信託財産の処分等について受託者が締結した売買契約書、賃貸借契約書、金銭消費貸借契約書、建物請負契約書などが該当します。信託財産から支出、処分を伴う各種契約をした場合には、それらの契約書を保管しておく必要があります。
- 保存期間
受託者は、信託事務の処理に関する書類は作成または取得の日から10年間保存しなければなりません。なお、10年以内に信託の清算結了があればその日までとなります。ただし、受益者に写し等を交付した後は保存義務が免除されます。 - 報告義務
受託者には、信託事務の処理に関する書類自体を定期的に受益者へ交付又は報告する義務はありません。
もっとも、委託者又は受益者は、受託者に対し、信託事務の処理状況や信託財産及び債務の状況について報告を求めることができます。また、受益者は、理由を明らかにした上で、信託事務の処理に関する書類の閲覧又は謄写を請求することができます(信託法36条、38条1項)。
※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
弁護士
小西 憲太郎
- 所属
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大阪弁護士会所属
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事