コラム

民事信託 ~受託者の義務について~

信託

 信託とは、委託者が受託者に財産の譲渡等を行い、受託者が一定の目的(信託目的)に従い、財産の管理・処分および目的達成に必要な行為をすべきものとすることです。受託者は信託財産の名義人となり、原則として単独で管理処分権限を有しますが、その権限は信託目的に拘束され、受益者のために尽くすべき重い義務を伴う点に大きな特徴があります。そのため、受託者は、信託目的に沿った、適正な財産の管理処分を行うことが必要となります。
 受託者に課される主な義務として、以下のものがあります。

信託事務遂行義務

受託者は、信託の本旨に従い、信託事務を処理しなければならない(信託法29条1項)。

 受託者の義務の一つは信託事務遂行義務となります。
 この「信託の本旨に従い」とは、信託行為の定め及びそこから客観的に把握される信託目的に従うことを意味します。

善管注意義務

  受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない(信託法29条2項)。

 善管注意義務とは、「その職業や地位にある人として通常要求される程度の注意」と解釈されています。受託者には、自分の財産を管理する場合よりも高度な注意義務が課されます。
 善管注意義務の注意の水準は、信託行為に別段の定めを置くことにより、加重又は軽減することができます。ただし、受託者に何らの注意も求めない旨の定めまで有効となるとは限りません。

忠実義務

 受託者は、受益者のために忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならない(信託法30条)。

 受託者は、もっぱら受益者の利益のために行動しなければならないという原則が忠実義務です。忠実義務違反行為が禁止されているのは、受益者の利益を保護するためです。
 受託者の忠実義務を具体化した代表的な規定として、「利益相反行為の制限」と「競合行為の制限」があります。

利益相反行為の制限

 利益相反行為と言われるのは、以下のようなもので、原則禁止されています。

  • 自己取引
  • 信託間取引
  • 受託者が第三者との間において信託財産のためにする行為であって、受託者自身がその第三者の代理人になって行うもの
  • 間接取引

 上記一般原則に対して、以下の例外規定が設けられています。

1. 信託行為にその行為をすることを許容する旨の定めがあるとき

2. 受託者がその行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。ただし、この受益者の承認が得られる場合であっても、当該行為をすることができない旨の信託行為 の定めがあるときは、当該行為をすることができない

3. 相続その他の包括承継により信託財産に属する財産にかかる権利が固有財産に帰属したとき

4. 受託者がその行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要であると認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、または当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的および態様、受託者と受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき

 受託者が、上記の許容事由に基づいて利益相反行為をした場合には、信託行為に別段の定めがあるときを除き、遅滞なく、その旨及び当該行為についての重要な事実を受益者に通知しなければなりません。
 受託者が信託法第31条第2項の許容事由を満たさずに自己取引(受託者の固有財産と信託財産間の取引)や信託財産間取引を行った場合、その行為は原則として無効となります。ただし、受益者はこの行為を追認することができ、追認によって行為の時に遡ってその効力を生じさせることが可能です

競合行為の制限

 信託法では「受託者は、受託者として有する権限に基づいて信託事務の処理としてすることができる行為であってこれをしないことが受益者の利益に反するものについては、これを固有財産又は受託者の利害関係人の計算でしてはならない。」(信託法32条1項)としています。

 なお、競合行為について、以下の場合は当該行為を固有財産または受託者の利害関係人の計算ですることができます。

  • 信託行為に当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることを許容する旨の定めがあるとき。
  • 受託者が当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることについて重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。
     ただし、この場合でも当該行為を固有財産又は受託者の利害関係人の計算ですることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでないとされています。

 競合禁止の規定に違反して受託者が自己の固有財産等の計算で行為をした場合、受益者は、当該行為が信託財産のためにされたものとみなすことができます。
 ただし、この場合、第三者の権利を害することはできず、さらに、この権利は、当該行為の時から1年を経過したときに消滅します。

公平義務

 ひとつの信託に受益者が複数存在する場合、受託者はこれらの受益者を公平に扱わなければなりません。ただし、公平義務とは、受託者が受益者をすべて平等、同等に取り扱わなければならないという意味ではないと解されています。
 また、どのような取扱いが公平であるかは、受益者にどのような利益を享受させるかという信託行為の定めや信託目的に照らして判断されます。

分別管理義務

 信託法34条は、財産の種類に応じ、信託登記・登録、外形上区別した保管又は計算を明らかにする方法などを定めています。
 信託制度の趣旨からして、受託者が信託財産として託された財産と、受託者が持っている固有財産、または他の信託財産とを、分別して管理しなければならないのは当然であり、この義務を「分別管理義務」といいます。
 信託において、信託財産は委託者の手から離れて受託者名義となりますが、信託財産が受託者の固有財産となるわけではありません。
 分別管理義務は、信託財産の帰属を明確にし、受託者の固有財産等からの独立性を確保するためのものです。
 なお、信託財産と固有財産とを識別できなくなった場合には、それぞれの財産の価格割合に応じた共有持分が信託財産と固有財産に属するものとみなされます(信託法18条)。

※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。

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弁護士

小西 憲太郎

所属

大阪弁護士会所属

刑事弁護委員会

一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事