民事信託 ~受益権とは~
民事信託において、受益者は受益権を有する者とされています。それでは、信託法では受益権をどのように定義しているのでしょうか。
本コラムでは、受益権について解説いたします。
受益権とは
この法律(信託法)において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対して負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。(信託法2条7項)
つまり、条文では以下の2つの権利を受益権として定義しています。
- ①信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって、信託財産に属する財産の引渡し、その他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(受益債権)
- ②受益債権を確保するために信託法の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利
①の権利は、受益者が信託契約に基づき、受託者に対し、信託財産に属する財産の引渡しその他の給付を請求する権利です。
また、②の権利は、受益債権を守るために受益者の有する監督的な権利とされ、以下のような権利となります。
- 受託者の権限行使違反の取消権
- 受託者の利益相反行為の取消権
- 信託事務の処理状況についての報告請求権
- 信託事務に関する帳簿等についての閲覧、謄写請求権
そして、これらの受益者が有する権利の総合体が「受益権」であるとされています。
受益権の取得
受益権の取得について、信託法では以下のように定めています。
信託行為の定めにより受益者となるべき者として指定された者(次条第一項に規定する受益者指定権等の行使により受益者又は変更後の受益者として指定された者を含む。)は、当然に受益権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。(信託法88条1項)
このように、信託法では受益者が承諾するか否かにかかわらず、受益者に指定されたものは当然に受益権を取得します。これは、判断能力が十分でない者を受益者に指定する場合にも重要な意味を持ちます。
受益権の譲渡・放棄等
信託法では、受益権の譲渡や質入れを設定することができるとしています。
受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。(信託法93条1項)
受益者は、その有する受益権に質権を設定することができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。(信託法96条1項)
しかし、民事信託においては、受益権の譲渡や質入れは信託の目的にそぐわないケースも多く、信託契約で譲渡や質入れの禁止を定めるのが一般的です。
また、受益権は放棄することもできます。
受益者は、受託者に対し、受益権を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、受益者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。(信託法99条1項)
ただし書以下の、受益者が信託行為の当事者である場合とは、委託者自身が受益者になっている自己信託の場合が当てはまります。
受益者が受益権放棄の意思表示をした場合、受益者は当初から受益権を取得していなかったことになります。よって受益権放棄の時点までに受けた利益については、不当利得として返還しなければなりません。
受益者が複数いる場合の受益権
信託においては、受益者が複数存在するケースもあります。受益者が複数いる場合における受益者の意思決定方法は、原則として受益者全員の意見が一致することが必要になります。
しかし、実際において全員一致の原則は現実的ではありません。そのため、信託法では、「受益者集会」という制度を導入しています。
受益者集会は、受益者の集会において、議決権を行使することができる受益者の議決権の過半数を有する者が出席し、出席した受益者の議決権の過半数で決議を行う制度です。
多数決では少数者の意向が反映されないことがあります。そこで、少数派の受益者の保護として、一定の場合に受益者は、受託者に対し、自己の有する受益権を公正な価格で買い取るよう請求することができます。これを受益権取得請求といいます。
受益権取得請求権を行使できる一定の場合とは、以下のものになります。
- 信託目的の変更
- 受益権の譲渡の制限
- 受託者の義務の全部または一部の免除 【変更により損害を受けるおそれのある受益者】
- 受益債権の内容の変更 【変更により損害を受けるおそれのある受益者】
- 信託行為において定めた事項にかかる信託の変更(重要な信託の変更) 【変更により損害を受けるおそれのある受益者】
- 信託の併合または分割 【これにより損害を受けるおそれのある受益者】
なお、重要な信託の変更等の意思決定がされた場合、受託者は当該意思決定の日から20日以内に受益者に対し
1.重要な信託の変更をする旨
2.重要な信託の変更等がその効力を生ずる日
3.重要な信託の変更等の中止に関する条件を定めたときは、その条件
を通知をするか、官報による公告をする必要があります。
受益者は、この通知もしくは官報公告の日から20日以内に、受益権取得請求権を行使する必要があります。
※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
弁護士
小西 憲太郎
- 所属
-
大阪弁護士会所属
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事